野口 忠直さん

あたたかいお顔をいまも思い出す

 明星中学に入学したのは1947(昭和22)年ですから、戦後まだ2年。児玉九十先生は、当時の府中でもほんとうに人望が厚く、みんなが惚れこんでしまう方でした。私の4人の兄弟も明星。生まれ育った府中の商店街の子弟にも明星の生徒がいっぱいいました。

 なにしろ、お顔がいいんです。まさに、温顔。毎朝お話を頂くんですが、みんな九十先生のお顔をみて、朝からうれしくなっちゃう。英国のイートンというパブリックスクールを視察されたときの話とか、世界に信頼される日本人になれとか。お話のあと「心力歌」(しんりょくか)を唱和するのが日課でした。「天高うして日月懸り、地厚うして山河横たわる...」とまだまだ続きますが、今でも全部暗唱できる。精神力を統一すること、心の力は大切な力ですよという、九十先生の教えが凝縮した習慣で、当時は「凝念」(ぎょうねん)と呼ばれていました。

 勤労作業や掃除も忘れられない思い出です。便所の汲取もありました。二人で桶をはさんでこぼさぬよう運ぶのがかなりまいりました。(笑)草取りひとつをとっても人として全てが勉強。そう体で教えこまれた気がします。

 昭和49年に九十先生は府中市初の名誉市民になられました。明星教育がいかに人の心を捉えたかの証なのでしょう。とても喜ばれていらしたあの温かいお顔を思い出しながら、私自身、校訓である「健康」で「真面目」に「努力」することができているかを振り返る次第です。

写真:野口 忠直さん 野口 忠直さん

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