1年後の子どもたちから教師の姿勢が見える 人間関係と環境整備こそ学級経営の土台

#101

元明星小学校校長

菅野秀二さん

かんの しゅうじ

【明星大学人文学部心理教育学科教育学専修 1980年卒】

明星小学校教諭として、サウジアラビアのカフジでも教師としての経験がある菅野秀二さん。子どもたちが意欲的に学べる人間関係や環境の整備、そして自らも日々成長することを強く意識して教員生活を送ってきました。長年の教師生活を振り返り、仕事の難しさや魅力について語っていただきました。

カフジの小学校で貴重な経験を積む

教師の道を目指すようになったのは、明星高校3年時の進路指導の際に担任の先生から言われた「菅野君は先生に向いている」という言葉でした。特にその理由を聞いたわけではないのですが、当時から与えられた仕事や自分で決めた目標に対して、真面目にコツコツとこなしていくよう心がけていたのを評価していただけたのかもしれません。分からないことはそのままにせず、納得するまで調べたり、聞いたりして解決しようとする姿勢も見られていたのではないでしょうか。

最初は迷いもありましたが、明星大学の心理教育学科で教師を目指す周りの友人や、先生方のお話を聞くうちに、子どもたちのために何かができるのであれば貢献したい、という気持ちが強くなっていきました。また、幼児教育研究会というサークルに入り、幼稚園や保育所に実際に出向いて、成長過程にある子どもたちに触れられたことも、教師を目指す後押しとなりました。

カフジの近くの砂漠にて(1度目のカフジ、1986年)

明星小学校に就職して数年後、28歳の時にサウジアラビアのカフジにあるカフジ明星小学校に赴任するお話を頂きました。高校時代、凝念の時間に児玉九十先生がよく時事問題や世界情勢の話をされていて、自分も一度は違う国の文化や風習を見て体験したいと考えていたので、お受けすることにしました。実際に現地で暮らしてみて、休日にはサウジやクウェート国内だけでなく欧州にも足を延ばすなどして、国による様々な違いを肌で感じたのは貴重な経験となりました。

カフジでは現地在住の日本人の子どもたちに教えていたので、授業の内容は日本の小学校と同じでしたが、子どもたちの人数が少なく、多くの行事は児童全員で関わるような雰囲気でした。自分でできることは自分でやる、という意欲にあふれた子どもたちが多く、例えば運動会の準備の際にも、普通なら高学年が担当するマットや鉄棒運びなども1年生が自分たちで率先して行っていました。

カフジで教員生活を経験したことによって気付いたのは、学級経営の大切さです。授業の中身ももちろん大事なのですが、家を建てるのと同じく、人間関係と環境整備の土台がしっかりできていないと各教科の授業もままなりません。環境が子どもたちに与える影響は非常に大きなものがあり、人間関係がうまく行っていれば子どもたちも学校に行くのが楽しみになります。カフジでは、クラスのみんなが家族的な雰囲気でまとまっていましたが、日本の学校ではなかなか難しい部分もありました。でも私は、日本でも1つの家族のような形で子どもたちには過ごしてほしかったので、学級経営についてはずっと強く意識してきました。
私自身、人生の節目で素敵な出会いに恵まれ、良い環境で成長させていただきました。改めて、「人は人で磨かれる」「人は人の中で育つ」「環境は無言の教育」「環境は最良の教育者」といったことを実感しています。

カフジ明星小学校の正門前にて(2度目のカフジ、1996年)

教師も日々成長しなければならない

授業を行う上で意識しているのは、開始と終わりで子どもたちが変わっていなければならないという点です。分からなかったことが分かるようになったり、できなかったことができるようになったりする感覚を持ってもらうのが大切だと考えています。そうでなければ、授業を行う意味がありません。これは、現在授業をしている明星大学の通学・通信教育課程でも、教師を目指す学生たちに伝えている部分です。

クラスを1年間受け持つと、自分が伝えてきたことが、子どもたちを見ると分かってしまいます。教師として何を大事に教えてきたかが、子どもたちの姿として1年後に見えるようになります。それが教師の仕事の醍醐味でもあり、怖さでもあります。また、教え子たちが卒業後に地域や世界などで活躍している姿を見るととても誇らしいですし、今でも連絡がくるのは教師冥利に尽きます。その一方で、「もっとこんな風にすればよかったな」と思うこともしばしばです。やはり自分が成長していかないと子どもたちに教えられないですし、常に悩んだり考えたりしながら、自分を磨いていくのが大切だと日々感じています。

凝念の時間に唱えた心力歌

「私たちはリスクなしに社会の中で生きていくことはできない」といわれています。新型コロナの世界的な流行、ほかにも自然災害や食の安全など社会の緊急事態に直面する場面があります。そんな時にこそ明星学苑で学んだ、物事を正しく判断する力がきっと役に立つことでしょう。先の読めない時代にあって、技術の進歩も非常に早い中で、明星学苑で大事にしてきたものと新たに生まれてくるものとのバランスを大事にしていってほしいと思います。新たな時代に向けたチャレンジを行いながらも、学苑の素晴らしい伝統をこれからも大切にしていってほしいです。