明星学苑創立100周年ビジュアルで歴史と未来の可能性を表現

#086

周年ビジュアルのデザイナー

保田卓也さん

ほだ たくや

明星学苑創立100周年ビジュアルの制作を担当された保田卓也さん。学苑の歴史を理解した上で、次の100年に向けた可能性を独創的なデザインで見事に表現されました。「デザインそのものを目的にするのではなく、歴史や概念を形にしてコミュニケーションができることが楽しい」と語る保田さんに、制作にあたって意識した点や、デザインの仕事の面白さについて教えていただきました。

周年ビジュアルに込められた意味

今回のデザインで最も重要かつ難しかったのは「歴史と未来をどう捉えて可視化するか」という部分です。明星学苑の100年の歴史を踏まえつつも、歴史に捉われることなく新たな100年を築いていく熱意をどう表現すべきか、歴史を否定するのでも単に保持していくのでもない在り方とはどういうものか、と考えながら制作しました。

明星レッドと呼ばれるスクールカラーの三本線からたくさんの色に分色するデザインは、歴史を見つめて多様な解釈をした先に、様々な可能性が生まれるイメージから発想しました。歴史を大切にしつつも、ただ不変なものとしてではなく、変化への可能性をも秘めたものとして捉え直すという考え方を表現しています。そのために明星レッドから生まれ得る様々な色をつくっていきました。下図で二つの円が交差する部分はどれも同じ明星レッドですが、これだけ多様な色の重なりの結果として捉えることができます。「明星らしさ」の解釈が人によって微妙に違うように、歴史の解釈には幅があるものだと思います。明星らしさを象徴する明星レッドを使いながら、次の100年で生まれる無限の可能性も同時に表現したいと考えました。

「明星であり、まだ明星でないもの」を色で表現
次の100年に広がる様々な色は、三本線のスクールカラー(Meisei Red)を分色するイメージで作成したものです。歴史を大切にしつつも、それをただ不変なものとしてではなく変化への可能性をも秘めたものとして捉え直す、そのような歴史観を表現しています。

実は最初に思いついたのは、明星レッドの面が三角形のように、ある一点に向かって集約し、そこから様々な色が広がっていくデザインでした。ただ、その形で本当に明星らしさが表現できるのか、疑問が湧いたんです。明星のロゴマークにも使われている三本線には校訓である「健康・真面目・努力」の意味が込められていて、実際に真面目で素直な学生さんたちが多いと聞いていました。その明星らしさはこれからも変わらずに大切にするとよいのではないかと思いました。だから周年ビジュアルの線もまっすぐが良いのではないかと。制作中はそのようにいろいろと頭で考えながら手を動かすのですが、形と意味が重なって「できた」という感覚に至る瞬間があります。100周年ビジュアルもそうしたプロセスを経て完成しました。

デザインを通じて、社会、歴史、概念と向き合う

私が感じるデザインの面白さとは、内容と形式に関係性を持たせられる部分です。形や造形だけというより、社会や歴史、概念などと形を通じて向き合い解釈することに魅力を感じています。たとえば、歴史は目に見えないものですがデザインを通じて形にすることで、目に見え触れられる感覚を持つことがあります。人と共通認識を持ったり、語り合ったりするベースにもなるでしょう。事前にリサーチして、歴史を学んだうえで内容を可視化する作業は翻訳に近いとも思っています。

このように、私はデザインを内容と形式の関係性を考えるものだと捉えているので、どんな仕事でも一貫して同じアプローチを行っています。たとえば展覧会に関するデザインにしても、その作品の持つ価値を学ぼうとすると、作品が出来た当時の社会情勢やそこに生きた作家の人生と接続することになります。明星学苑の場合は、周年ごとの資料がきちんと整理されていたので、それらを見て楽しみながら明星らしさについて学ばせていただきました。最初の打ち合わせの際に「歴史と未来をつなぐ」という私の役割が明確化され、学内外の人々が共通認識を持てるデザインを作るというミッションが、早い段階で見えたのは非常に有難かったです。

左側にある明星学苑のスクールカラーの三本線は、コミュニケーションマークがもとになっており、創立以来100年間大切にしてきた精神や校訓、歴史を象徴しています。右側に広がる多彩な線では、次の100年において学苑も学ぶ人も変化しつづけ、時代と世界の起伏を恐れず挑戦し謳歌するイメージを表現しました。

私のキャリアについてお話ししますと、もともとデザイナーではなかったんです。学生時代からビジュアルコミュニケーションデザインを学んでいました。しかし働きはじめた最初は凸版印刷でディレクターとしてクラアントのプロモーションのために情報を集約し、企画・編集する仕事からスタートしました。その後、手も動かしながらモノを作りたいと思うようになり、本格的にデザイナーとして活動を始めました。デザイナーとしては少し変わったキャリアだと思います。

ですから私の場合、野球選手のイチローさんのように幼少期から目的地を定めてひたすら追及してきた人生ではないのですが、節目ごとに好きなことを選び取ってこられたのは幸運だと思っています。明星学苑の生徒さんにも、自分の好きなことを追求してほしいと思います。先行きが見えない時代ですが、好きなことを持っておくことが人生において大事ですし、その上で社会とどう繋がっていくのかを考えると、人生が楽しくなると思います。