子供たちの変化が最大の喜び 自ら問題を見つけ先に進んでいく児童を育てたい

#084

明星小学校・広報主任

平井哲さん

ひらい てつ

明星小学校に赴任して以来、それまでになかった新授業のスタイルを取り入れてきた平井哲先生。1年前からは広報活動にも従事し、入学志願者数増加など大きな成果を出されています。公立小学校から明星に来た経緯や、これまでの取り組みについて語っていただきました。

公立小学校から明星小に赴任して新たな風を吹き込む

2017年に明星小学校に赴任するまでは、公立小学校で12年間勤務していました。公立校を辞めて私立に行く教員は珍しかったのですが、東京都の教員は年齢層が低く、当時私は35歳くらいで管理職のポジションに就かざるを得ない状況でした。担任のクラスを持って、もう少し現場で働きたいと考えていたタイミングで、算数の研究会で面識のあった細水保宏校長に声を掛けていただきました。

それ以前に、明星小では算数の研究会で授業を担当したことがあったのですが、公立校とは違う雰囲気に戸惑ったのを覚えています。公立校では20年ほど前から子供たちが自主的に参加する授業のスタイルを取り入れていましたが、多くの私立校では独自のやり方を継続しているところがほとんどでした。子供たちは大人しかったし、私がおどけてみせても反応がないため、とても大変だった記憶があります。

公立小ではそれぞれの学校に重点科目が研究テーマとしてカリキュラムに組み込まれていたのですが、明星小に赴任した時はそれもありませんでした。そこで、以前から外部の研究会に参加していた先生方や、私と同じく公立小や他の自治体から赴任してきた先生方と協力して仕組みを作り上げていきました。そうした取り組みの結果、新しいものを生み出そうという空気が生まれてきました。この2~3年で授業の雰囲気が大きく変わり、活気が出てきたように感じます。

朝日新聞で紹介された4年生の授業風景。朝日新聞「花まる先生 公開授業」では、全国で評判の先生の授業をルポしつつ、子どもの目が輝く教え方、わくわくする仕掛けいっぱいの出題、「あの時あの先生から教わってよかった」と思えるような授業と、子どもたちの様子が紹介されています。

 授業に活気をもたらすために行っているのは、子供たちの発言を促し、子供たち同士の会話を通じて、問題を解決していく手法です。先生が一方的に教えるのではなく、「前に習ったあれが使えそうだね」「今、Aさんが言った事は分かるかな?」といった形で、教師は子供たちの媒介に徹して、授業を進めていきます。意図的に黙るということもよくやります。私が黙っていると、子供たちは「何か間違っているのではないか」と気付き、自主的に動きだすようになるからです。

ちなみに、私は明星大学の通信教育部で非常勤講師を務めていますが、そこには18歳から50歳くらいの学生がいます。それぞれが受けてきた小学校の授業が時代とともに異なるため、同じ土台で話ができないのではないか、と心配していたのですが、学生は授業について根本的に受け身の姿勢で臨んでいるので、年代による差はほとんど見られませんでした。「授業は聞くもの」という意識が多くの国民に染みついているのです。明星小学校で起きた子どもたちの変革が、今後全国に広がっていくことに期待しています。

私立を選択肢に入れていない保護者の方々にも明星の良さを伝えたい

明星学苑の子供たちや卒業生の方々は、芯の部分で「明星出身であること」に対して自信というか、心の拠り所を持っているように思えます。言語化が難しいのですが、「明星ファミリー」のような感覚を自然と持っているように見えるのです。以前、明星大学から来た教育実習生が書いた文章に「自分の心を育ててくれたのが明星学苑で、それが人生の道しるべになっている」という内容が記述されていたのですが、私が感じていた感覚に近いものがありました。その「共通の軸」のようなものが、明星の良さだと思っています。

明星のことを知るにつれ、外部にもっとアピールしていく必要性を感じたため、自ら希望して2022年度からは広報主任も務めています。まず、小学校の算数では抜群の知名度を持つ細水校長に前面に出ていただき、次に現場の教師たちが体験授業などで学苑の魅力を子供たちと保護者の皆様に知っていただくよう取り組んでいます。大変なこともありましたが、今年はここ10年ほどで最も多い入学志願者数を達成することができました。

私立小学校に通う児童は全体から見るとマイノリティで、以前は私立校同士で児童を取り合う構図でした。しかし、これからは私立への進学を選択肢に入れていない保護者のみなさまにも目を向けていただく必要があります。公立校にはない良さをいかにアピールしていくかが、今後の広報で重要になっていくでしょう。

休み時間の風景(子どもたちとじゃんけん対決をする平井先生)

そのためには教師も研鑽を積み、高い授業の質を担保することも大切です。その取り組みの一つとして、私が赴任して2年目から開始した授業研究があります。一つのクラスだけ残して全員が下校した後、そのクラスで行う先生の授業を他の先生たちが見て、良かった点や改善すべき点を話し合うというものです。これをやると授業をする先生も、見ている先生たちも大きく成長します。私立で同じ試みを行っている学校はまだ多くありません。

そして、学苑として最も訴求できる強みは、何といっても子どもたちの姿だと思います。保護者の方々とお会いしたときに、「子供が積極的になった」「自ら学ぶ姿勢ができた」等、変化を褒められることが増え、とても嬉しく思っています。今、力を入れている「探究」の活動などが象徴するように、自分で問題を見つけ、先に進んでいける子供たちが数多く育ってほしいと願っています。