ハンドボールを通じてザンビアを支援 アフリカの魅力をぜひ知ってほしい

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写真中央が田代さん。写真右はマラウイの外務大臣。

外交官(在マラウイ日本国大使館次席)

田代征児さん

たしろ せいじ

【明星中学校・明星高校 1989年卒】

高校時代はハンドボールに打ち込み、大学卒業後もJICAボランティアとしてハンドボールの国際的な普及活動に携わってきた田代征児さん。外務省に入省後、勤務先のザンビア赴任中に携わった選手たちへの支援や、アフリカへの思い入れについて語っていただきました。

ザンビアのハンドボール選手たちを継続的に支援

中学時代にハンドボールを始め、明星高校では全国優勝を経験しました。実は、高校時代のハンドボールの記憶がほとんどないのです。相当辛かったのか、必死だったのか、同期の詳細な記憶を聞いても思い出せないことが多いのです。ただ、明星高校女子ハンドボール部監督の佐藤誠司先生をはじめ、同期の仲間とは元旦の初投げで時々再会していました。エピソードがあるとしたら、大学に進学したときのことでしょうか。ハンドボール部の大学推薦を断って、自分で大学を選び、受験して亜細亜大学に入学したのですが、当時の顧問の先生から「ハンドボールを続けるつもりはあるのか」と問われたのを覚えています。

海外での仕事を志すきっかけとなったのは、大学時代に交換留学制度によってアメリカに留学したことです。大学卒業後は、国際協力機構(JICA)青年海外協力隊のハンドボール隊員としてバングラデシュで2年間活動しました。その後、JICAのボランティア調査員として中米のベリーズで勤務しながら外務省中途採用試験に合格、2008年からボツワナで2年間、ケニアで1年間働いた後、ザンビアに赴任することになりました。

第41回全日本高等学校ハンドボール選手権大会にてチームメイトと(後列左から2番目が田代さん)

当時、ザンビアにはハンドボール経験者の日本人が4人もいて、私自身も学生時代に打ち込んできたハンドボールをもう一度やりたいという気持ちになっていました。そこでザンビア在住の日本人と現地ハンドボール協会関係者で親善試合を行ったところ、プリチャードという将来有望なジュニア代表選手と出会ったのです。彼は家庭環境が厳しいため小学校も卒業しておらず、着るものも食べるものも限られていました。学生時代に恵まれた環境でプレーできた自分と比べ、その格差に驚愕しました。

日本に帰国後も、彼らを何とか支援したいという思いが消えず、ザンビア代表チームの東京オリンピック出場を目指し、「日本・ザンビアハンドボール交流プロジェクト」を立ち上げ、日本での親善試合実施を企画することになりました。クラウドファンディングで渡航費や滞在費を募ったところ、資金が無事に集まり、明星高校を含む日本各地で試合を行うことが出来ました。

この時参加した、プリチャード、モーゼス、ネーサンの3人の選手に対しては、その後も支援を継続しています。プリチャードには3年間の復学支援のあと、インターンシップを仲介し、必要な経費の支援を行い、彼は最近、ザンビア市内のフィットネスジムでトレーナーとしての職を得ることができました。失業率の高いザンビアで職を見つけるのは難しい中、努力し続けた結果です。今も、リサーチペーパーを2年間で8本書くことを条件に無償でパソコンを貸与し、終了後はパソコンを贈与するプログラムを続けています。モーゼスには、ビジネスを学ぶ専門学校への通学支援として、3年間の授業料を支援しており、卒業後のビジネス・プランによっては出資なども検討したいと考えています。ネーサンは独自にハンドボールのクラブチームを作り、50人程度の選手を抱えるコーチになりました。まだまだ未熟な運営なので、リーグ戦の登録料、コーチの研修費用、ユニフォームなどを支援しています。

アフリカに関心を持って、機会があれば訪れてほしい

私はその後、ケニアの日本大使館、ニューヨークの日本総領事館での勤務を経て、現在は在マラウイ日本国大使館の次席として赴任しています。マラウイはアフリカ4か国目の勤務となります。次席としての仕事は、大使の補佐から大使館のマネジメントの全般、さらにはODA政策や邦人援護など、多岐にわたっています。

日本の人口の中心年齢は私の年齢(50歳)ですが、アフリカの中心年齢はなんと19歳です。それほど若者が多いこともあり、21世紀の後半はアフリカの人々が世界経済の中心的な役割を担うともいわれています。少しでもアフリカに関心を持っていただき、アフリカのどこかの国を調べてみたり、アフリカ原産の商品を買ってみたりするのもいいでしょう。何か気付くことがあるかもしれません。

日本ザンビアハンドボール交流プロジェクト。明星高等学校ハンドボール部と国際親善試合を行った際の一枚(前列左から2番目が田代さん)

世界は広く、様々な人々が、様々な環境で、自分たちの文化を大切にしながら生きています。日本の報道ではアフリカへのステレオタイプなイメージによって、紛争や貧困、飢餓などにスポットが当てられがちですが、人々は大らかで、笑顔に満ちています。マラウイは、貧しいですがThe Warm Heart of Africaと言われる温和な人々が暮らす自然豊かな国です。地理的には遠いですが、明星学苑の生徒さんたちも機会があれば、ぜひアフリカを訪れてみてください。きっと人生観が変わることでしょう。

明星高校時代のクラスメイトと共に(後列左から2番目が田代さん)