Z世代の若者を中心とした地域活動を支援。地方と都市、間に立ってそれぞれの価値を翻訳できるライターに

#075

ライター・長野県立大学ソーシャルイノベーション創出センター(CSI)地域コーディネーター

北埜航太さん

きたの こうた

【明星高校 2013年卒】

長野県辰野町で、地方創生の仕事に様々な形で携わる北埜航太さん。明星中学、高校時代は大人しい性格でしたが、大学生の時に経験したインターンシップで人生の方向性が定まりました。これからの地方創生に必要な事、そして現在の仕事にも繋がっているという明星学苑時代の思い出を語っていただきました。

インターンシップで訪れた辰野町に移住

中学時代は野球部、高校時代は陸上部に所属して、ほぼ部活しかしていなかった記憶があります。人との繋がりに関心はありましたが、結構自信がないタイプで周りからはおとなしい性格と思われていたかもしれません。

人に対する興味を実際の行動で発揮するようになったのは、大学生になってからです。高校1年生の時に東日本大震災の津波の映像を見て以来、ずっと興味のあった東北地方を大学1年生の時に訪れ、震災後のリアルな現場を見たことで地方創生の分野に関心が湧きました。そこで、学生が地方の新規事業などに携わる「地域ベンチャー留学」というインターンシッププログラムに参加し、長野県の辰野町に2カ月ほど滞在することになりました。説明に訪れた担当者は行政ではなく民間の方で、仕事というより個人として来ている感じで地域のアピールもそこまで強くせず、むしろ僕のやりたいことを聞いてくれたんです。他の自治体も候補にある中で辰野町を選んだのは、個人の思いを大切にしてくれたことが魅力的に映ったからです。

辰野町では、住民との対話を通じて理想の街づくりを目指すコミュニティセンターを作るプロジェクトに参加しました。高校時代に小論文の授業をとっていて、言葉で表現することは好きだなと思っていたこともあり、コミュニティセンターの立ち上げの様子や場の価値をSNSで発信する広報活動に携わりました。想像以上に多くの人たちが集まったのを見て、家庭でも職場でもない第三の場所がすごく求められていることを実感できました。こうした活動を通じて、将来は企業でも役所でもなく「地域」に就職したいという意識を持つようになりました。

取り組みを長野の新聞に掲載してもらった時のインターン仲間との一枚

いきなり地域に飛び込んでも個人では何もできないので、卒業後はPR会社に就職し、その後メディア企業でも働いて、コミュニティを支援するためのスキルを磨きました。インターンシップが終わってからも辰野町の人たちとはずっと交流を続け、社会人になって3年後に本格的に移住を決断しました。現在は「間(あわい)」という屋号の個人事業主として編集、ライター業を務める他、長野県庁でゼロカーボン社会を共創していくためのコーディネーターや、長野県立大学のソーシャル・イノベーション創出センターで地域コーディネーターをさせていただくなど、話し手と読み手、都市と地域、大学と企業など、何かと何かの間に立って、異なるもの同士を翻訳したり、繋いだり、仲間にしていくような、地域創生の仕事に挑戦しています。

東京と地方が循環する仕組みづくりで価値を生む

辰野町に移住してからは、まず「地域おこし協力隊」に参加し、関係人口を増やす取り組みとして「お困りごとトリップ」を始めました。Z世代と呼ばれる若者たちを中心に、地域の古民家再生や耕作放棄地の活用を通じて、やりたいことをやってもらおうという試みです。約30人の方たちに参加していただき、そのうちの大学生の1人が休学して辰野町で関係人口向けの古民家シェアハウス事業を起業したり、2地域居住を決意するメンバーが出てくるなど、仲間が増えたようで嬉しく感じたのを覚えています。

地域の魅力に関しては、多くの場合、地域側と都市部の方々が感じるポイントにずれがあります。ですから、情報の受け手が求めているものに合わせて、地域が持っているものを編集して発信するのがPRにおいては重要だと思います。例えば、自然や文化が豊かな点だけでなく、いかに差別化した情報を伝えていくか、そのために何が必要かという目線が必要になってきます。

辰野町では、「作り手になれる町」というコンセプトが合言葉になっています。たとえば、平日は会社員として勤めながら、土日は「本屋を開きたい」「カフェを開きたい」「農業をやってみたい」といった夢やアイデアを形にする余白がたくさんある場所になっています。田畑も余っているし家賃も安いため、複業の拠点にすることも可能ですし、東京から3時間で通えて、近すぎず遠すぎない場所にあるのも魅力です。
移住まではしなくても、週末だけ訪れたり自分のプロジェクトを作ったりしていただきたいと思っています。

お困りごとトリップを経て、辰野町で起業、ファミリー向け2拠点古民家シェアハウスの事業を手がける現役大学生の小菅さんほか

今後、力を入れていきたいことは、未来の里山づくりです。SDGsなど持続可能な社会の重要性が叫ばれる中で、里山は江戸時代に確立された、人が生きるために必要な自然資源をサステナブルに循環させるエコシステムで、むしろ未来を先取りしていたと思います。そんな里山も過疎化などで循環が途切れてしまっているので、現代社会に合う形で循環のあり方を再編集していって、都市と共生・共創していく未来の里山の形を地域や関係人口とともにみんなでつくっていきたいです。

協力隊時代から関わっている里山・川島地区。県の移住モデル地区にも選ばれている

今の仕事には、明星学苑の経験も大いに役立っています。特に印象に残っているのは「凝念」と部活動日誌です。凝念は今で言うマインドフルネスに近いと思っていて、忙しい時に一息つくために思い出すのが習慣化しています。部活動日誌を書くことに関しては、野球部の顧問の先生がとても大切にしていて、書いたものをよく褒めていただいていました。肝心のプレーはエラーばかりで怒られてばかりでしたが(笑)。日誌を書く行為を通じて自分と対話することを学べましたし、試合前に自分を鼓舞するような文を書いていたことが、結果として自分以外の読み手の心に働きかける表現を養うことにつながって、今のライターの仕事にも繋がっていると感じます。

うまくできなくとも、順位が悪くとも、一生懸命に取り組んでいれば、いつかにちゃんとつながっていくんだということを明星中高の6年間から学ばせていただいたと思っています。