子供たちの発見や気付きを促し、成長を最大限に引き出したい

#071

明星幼稚園 園長

渡邊智恵子さん

わたなべ ちえこ

【明星大学人文学部心理・教育学科教育学専修 1987年卒】

渡邊智恵子さんは小学生の頃から抱いていた教員になるという夢を叶えて明星幼稚園の教諭に就任され、現在は園長を務められています。ご自身の歩みと子どもたちへの思い、これまでとこれからの明星幼稚園における取り組みなどについてお話しいただきました。

小学2年生で抱いた夢を叶え教員に

教員になろうと思ったのは小学2年生の頃です。教育実習に来られた女子大学生の方が最終日に感動で泣いている姿を見て、「素敵な仕事だな」と思って以来、ずっと教師になりたいと思ってきました。小学校教員を目指すためのしっかりとした学部学科編成があったのと、両親が児玉九十先生の教えに共感していたことなどから、明星大学の人文学部心理・教育学科教育学専修に入学しました。

小学校教育と同じく幼児教育にも関心があったため、大学時代は両方の教員免許が取得できるよう授業を選択しました。勉強が忙しかったのに加え、課外学習で学校や施設の見学などにも積極的に参加しましたし、学費を賄うためにアルバイトも行っていたため、かなり多忙な日々でしたが充実していたと思います。

大学で最も影響を受けたのは、ゼミの指導教授で幼児教育の権威だった岡田正章先生です。当時、米国の心理学者トマス・ゴードン博士が開発した「Parent Effectiveness Training(親業・おやぎょう)」と呼ばれているコミュニケーションプログラムに関する講座が日本で広がっており、私の母がその活動を手伝っていた関係で、岡田先生からお声掛けいただいたのが最初の出会いです。岡田先生のご指導によってトマス・ゴードン博士に深く興味を持つようになり、関連して開講された教師と生徒のコミュニケーションや、学級運営にフォーカスした講座(Teacher Effectiveness Training)を、日本全国の先生方と一緒に受講し、大きな刺激を受けました。

その後、教員免許を無事取得したのですが、当時は教員や教員志望者の数が多かったうえ、学級崩壊が社会問題化していて男性教員の採用が優先される状況だったため、なかなか教壇に立つことが叶いませんでした。そんな時、岡田先生から明星幼稚園の教員にならないかというお話をいただいたのです。最初はピアノが苦手なことを理由に躊躇していたのですが、先生から「必要に応じて努力しなさい」と叱られてしまいました。その後少し考えて、明星幼稚園の教員になる決心をしました。

幼稚園に勤務して最初の頃は、園児たちが言う事を聞いてくれなくて大変でしたが、園長先生のご指導の下、園児たちとのふれあいを大切にし、伝え方を工夫するなど試行錯誤するうちに手ごたえをつかんでいきました。当時の経験は、園長となった今も役立っています。

新たな教育目標に基づく取り組みがスタート

明星学苑100周年を機に、明星幼稚園では「多様性を認め、未来を切りひらく子の育成」を教育目標に掲げ、「すべての園児が自信をもって生活できる幼稚園」、「自分だけでなく友だちを大切にできる幼稚園」、「好奇心を育み自分の『好き』をたくさんみつけられる幼稚園」、これら3つのビジョンを持ってカリキュラムを策定し、実践しています。

そして2023年度からは、この新たな教育目標とビジョンに基づいて「めばえの時間」をスタートさせました。これは、小学校の学びにつながるように総合的に体系立てられた探究活動であり、伝える力を養う「コトバ」体験、科学の心を養う「なぜだろう」体験、豊かな感性を養う「創造力」体験の3つの柱から構成されます。明星小学校の「くぬぎの時間」に接続する内容となっています。

これらすべての活動は、土台に子どもたち一人ひとりの成長を最大限に引き出す教員力があってこそ実行できるものと考えております。当園のこれからの教育は、研修や研究に積極的に参加し、日々研鑽を積んでいる教員陣に支えられています。

「めばえの時間」を実践するために、「アクティブ遊具」を導入し、遊びの中に意図を持った学びを実現する園庭として「学びの園庭」も整備します。一人で集中したり、グループで自分の案を出し合って協働して遊んだりすることを通じて、子どもたちの新たな気づきや発見を促し、探究心を育んでいきます。

明星幼稚園に就任して以来36年が経ち、振り返れば人生の半分以上を過ごしています。駆け出しだった頃に受け持った方々が今では保護者となり、子育てに励んでいる姿を見ると感慨深いものがあります。教員人生を振り返ると苦しい時もありましたが、そのたびに子どもたちの姿を見て励まされてきました。これから先も出会ったすべての子どもたちが、将来の夢を描き、なりたい自分になり、幸せな人生を送れるよう願いを込めて一日一日を大切に過ごして参ります。

駆け出し教諭時代