学生たちには究極の自由を獲得し「それぞれの西本剛己」を目指してほしい

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100周年記念事業総合プロデューサー・明星大学デザイン学部 教授

西本剛己さん

にしもと たけみ

アーティストとして、独創的な作品を数多く制作してきた明星大学デザイン学部教授の西本剛己さん。100周年記念事業総合プロデューサーの任務に関しては「日本中のどの100周年事業より面白いものを作る」と意気込みを語ります。活動に対するポリシーや、学生たちへ思いをお話しいただきました。

卒業生たちのアイデアをもとに実現した学生たちのサードプレイス

2021年10月から22年3月まで「特別研究期間制度」を活用してニューヨークで制作活動を行い、帰国後に100周年記念事業の総合プロデューサーに任命されました。既に100周年記念事業はスタートしていたので、実働部隊としてそれぞれの企画をより面白いものにする役割を務めています。

記念事業として携わったものの1つが、図書館の2階の学生のための空間「MEISEI HUB(多彩な学びの空間)」のインテリアデザインです。学生たちが自主的にイベントを行ったり、ラウンジとして外国語を勉強してもらったり、キャリアセンターに行かなくても就職に関する相談ができたりと、サードプレイス的な使い方ができる空間を実現するのが目的でした。また、明星大学の図書館の蔵書は素晴らしいにも関わらず、利用率があまり高くなかったので、MEISEI HUBに赴く流れで図書館にも足を運んでもらえるような効果も期待していました。

自分の好きな空間ならいくらでも作れるのですが、今回は「学生のために」という気持ちが非常に強かったので、デザインにあたっては珍しく悩みました。自由に表現するアートと違って、デザインは相手が何を求めているかを考えるのが重要になります。その相手である学生が何しろ9千人もいるため、何が彼らのためになるのか、最初は全く分からなかったんです。

そうしてしばらく悩み続けたある日、ハッと気が付きました。自分は何を言っているんだと。これまで行ってきた授業の中で、多くの学生たちから聞いていた「明星大学は広いが学生がゆっくりできる空間がない」「カフェ的な機能を備えたコミュニケーションスペースがほしい」「木の素材と植物に囲まれた落ち着ける空間が良い」といった声を突然思い出したんです。一瞬でそれが頭に浮かび、そこから3D画面で空間全体のインテリアを構築するまでにわずか1日半しか掛かりませんでした。

「MEISEI HUB」内のフリースペース。自然素材・植物にこだわり、
「くつろげる空間」になっている。

デザインを考える際に強力なサポートとなったのは、過去の教え子たちの卒業論文でした。「人と人を繋げる就活・起業支援空間」というテーマで書かれた学生の論文には、「木の素材や植栽」「カフェ的機能」「様々なくつろぎ方が可能」「デジタルサイネージを随所に配置」等、空間づくりの要素が3DCGで表現されており、それを参考にしました。イベント空間のステージについても、別の卒業生のアイデアを反映しました。つまり、僕オリジナルのアイデアは今回ほとんど入っていないんです。

自分の周囲では、2023年に100周年事業を行う学校や会社がいくつかあるのですが、日本中のどんな100周年事業よりも面白くしてやろうという気持ちがあります。中途半端なところで良しとするのではなく、「150点を目指さなければ100点は取れない」という気概でそれぞれのイベントに取り組んでほしいと各部署にお伝えしています。僕自身も全力で協力していくつもりです。

学生をお客さんだと思って授業に臨む

デザイナーとアーティストの両方をやっている僕のような人間は稀なのですが、デザインの仕事からは引退すると2年前に宣言していました。そのためデザインの仕事は今回の明星学苑で最後になると思っています。一方、アートの仕事については今までより増やしていくつもりです。

教員の仕事に関して言うと、学生のことは自分のパフォーマンスを見に来てくれるお客さんだと思っています(笑)。だから授業の前は楽屋で出番を待つ芸人のように凄く緊張しています。授業ではとにかく最高のパフォーマンスを見せたいですし、あとは学生たちに対して平気で「僕は万能である」とか「全知全能を目指せ」と、言っています。傲慢に聞こえるかもしれませんが、学生からのアンケート結果では、ほぼすべての項目において満点に近い評価を貰っています。ただ、授業を離れたら学生のことは友達か仲間としてしか接していませんので、学生たちに凄くイジられています(笑)。

学生たちへのメッセージとしては、まず僕の著書『君の人生は大丈夫か?』(幻冬舎)を読んでほしいです。そして、おこがましいのを承知で言えば「それぞれの西本剛己になってほしい」と思っています。自分が追い求める本当の西本剛己とは「究極の自由を獲得する姿」です。自由とは「他人に対して責任を取る事」であり、責任が取れるようになれば、「西本さんの自由にやってください」と言われるようになり、他人や企業に対しての自由も手に入れられるようになります。現在、何千人もの自由を任されていますが、こんなに素晴らしく、かつ怖いことはありません。もの凄い自由と責任と嬉しさとプレッシャーを感じながら生きていますが、そのぶん非常に充実した人生を送っています。

自らの人生をデザインし、確実にチャンスをつかむためのノウハウが満載の一冊。
「狭い領域の専門家(スペシャリスト)ではなく、
マルチなジャンルで活動できる総合者(シンシスト)を目指してほしい。」

僕自身は自分の人生に自信があり、人生に完全に満足しながらも、本当の理想に追いついていない事を明確に意識し、そこに向かっている珍しい人間です。そんな西本剛己のような生き方を追求して、「それぞれの西本剛己になってほしい」というのが、学生たちへのメッセージです。