「その人らしく誠実に生き生きと生きる」姿勢は、健康な心と体から生まれる

#059

明星大学同窓会 会長

青木秀雄さん

あおき ひでお

【明星高校、明星大学人文学部 教育・心理学科1970年卒】

第8代明星大学同窓会長を務める青木秀雄さんは、明星高校卒業後、明星大学に進学。大学卒業後ザイール(現コンゴ)に3年半滞在し、小学校の教鞭をとるという貴重な経験を積まれ、その後も教育学の研究者として多大な実績を残されました。青木さんの学生時代の思い出や明星学苑に対する思い、在校生へのメッセージなどをうかがいました。

自分の殻を破り、なりたい自分になるための挑戦

私が会長を務める明星大学同窓会は、2022年4月に一般社団法人となりました。それまでは任意団体で卒業生同士の親睦が中心だったのですが、今後は大学への貢献という目的を明確にし、社会的な役割を果たせるようにしていきたいと考えています。奨学金やクラブ活動への支援を通じた在学生へのサポートの他、卒業生たちの経験を学生に伝える講義を開設したり、リカレント教育を推進したりといった活動も行っていきたいと思っています。

振り返りますと、子どもの頃は非常に体が弱く、小学校高学年になるまで学校にもほとんど通えない状態でした。これではいけないと思い、中学から柔道を始め、明星高校に入学した後も、座禅道場に参加するなど、心身を鍛えるための努力を続けてきました。

しかし、内向的な性格は変わらなかったため、高校卒業の際に将来は教師になりたいと担任の先生に相談したところ、「もっと人と接して外交的な性格にならないと駄目だ」と諭されてしまいました。そこで、明星大学に進学後、初めての英語クラスが終わった際に、「これから一緒に学んでいく仲間として、何か親睦を深めるためのレクリエーションをやろう」と思い切ってみんなの前で提案しました。すると数人の仲間が手伝ってくれることになり、今も正面中庭のシンボルとなっている噴水の前で、フォークダンスのイベントを開催することになったのです。

大学時代の青木さん

クラス仲間はみな初対面でしたので、私が実は内向的な性格だと知らなかったものですから、パフォーマンスしやすかったのです。その後も何かあるたびに私に提案してくるようになり、私もそれに応えていくうちに社交的な面が出せるようになっていきました。つまり、シェークスピアの有名な言葉“All the world is a stage, and All the men and women merely players.”のように、「この世は舞台、人はみな役者にすぎない」のです。

私たちは普通意識せずに様々な役割を演じています。親に向かっては子供役、友人には友達役というように。そこで、自分の殻を破るために憧れて求める役割を意識的に演じることで、自らなりたい自分になれる。それを学生の皆さんに伝えてきました。

社会人スタート時の体験が貫く筋道になる

大学卒業後の印象的な経験は、ザイール(現在のコンゴ民主共和国)渡り、現地の明星ムソシ小学校で勉強を教えるために、3年半ほど滞在したことです。当時、ザイールには銅鉱山の採掘目的で世界中の企業が集まっており、日本鉱業株式会社社員や商社マンの子どもたちが通う学校を設立する話が出ていました。そこで、明星大学2代目学長(当時は副学長)だった児玉三夫先生からその話を聞き、「小学校を作るから行ってみないか」と誘われたのです。先生は以前から私のことを知っていましたし、私は大学院に進学するつもりで、就職先も決めていなかったので丁度良いと思われたのかもしれません。アフリカ大陸は大変遠くて危険なイメージがあったため、両親や親戚は全員反対しましたが、私としては日本を飛び出したい気持ちも強かったため、児玉先生が父親を説得してくださいました。

現地には私ともう一名、校長先生をされた後に明星大学に職員として奉職された中西先生と渡り、1年生から3年生を中西先生、4年生から6年生を私が担当する形で授業が始まりました。そこで学んだのは、子どもたち同士でお互いに勉強を教え合うスタイルが、非常に高い学習効果を発揮するということでした。ザイール滞在時には夏休みなどに、英国の公立小学校や中学校を見学する機会もあったのですが、そこで盛んに取り組まれていたのはインフォーマル・エデュケーション、つまり教師が生徒に対して一方的に授業を行うフォーマルな形式ではなく、それを打破して子どもたちが興味のある科目を主体的に学ぶやり方だったのです。父兄たちも当たり前のようにボランティアで授業を手伝っていました。

明星ムソジ小学校で教鞭をとる青木さん

そうした光景に衝撃を受けて以来、英国における近代教育の歴史が、私の一番の関心事になりました。そのため、日本に帰国せずに英国に留学したいと考えていたのですが、結局、児玉先生に説得されて明星の大学院に進学し、以降は学長秘書室に18年間もお世話になることになってしまいました(笑)。

児玉九十先生の教え

秘書室時代の最初には、明星学苑の創設者である児玉九十先生にも大変お世話になりました。偶然にも、九十先生は私と同じく虚弱体質を克服するために柔道を始めたという経験をお持ちだったので、高校に入学当初から感銘を受けていました。ただ、入学・卒業の式辞等、いつも決まって未熟児で生まれた話で始まる例の話をされていたので、ある時「先生、違う話もされてみてはいかがですか?」と恐る恐るお伺いしたところ、「青木君、人が人生において、これは本当だと言い切れることはそれほど多くない。だから聞き飽きたと言われるまであえて話している。ダルマの話はまたあれだ、で良いのです」と諭されました。

先生は明星学苑の校訓「健康、真面目、努力」の大切さを沁み込むように繰り返し説かれました。「真面目」というのは、「面目ない」と遣われるように、結局「正にその人らしく生き生きと誠実に生きる」ということです。そうした「真面目・努力」の姿勢は、「心と体が健康であれば自然と身についてくるもの」という教えが、今も私の中に沁みついています。