教師が変われば生徒も変わる。子どもたちが未来をデザインする土台となる学校に

#058

明星中学校・高等学校 校長

福本眞也さん

ふくもと しんや

熊本県で複数の公立高校の教諭を務めた後、ベネッセコーポレーションの役員、教育コンサルタントと、独特な経歴を経て明星中学・高校に赴任した福本眞也校長。自らの歩みを「改革の歴史」と振り返ります。明星学苑で手掛けてきた改革と教育に対する信条についてお話を伺いました。

高校教諭、民間企業を経て明星学苑に

教師になりたいと思ったのは、高校時代の恩師の影響です。英語の先生だったのですが、授業が凄く面白くて分かりやすく、生徒の気持ちを引き付けるのがとても上手かった。その人のようになりたいと思っていましたね。

球磨農業高校、天草高校を経て、母校である熊本高校に赴任した時は、同校の伝統だったリベラリズムとアカデミズムが失われて、有名大学への進学実績だけを競うような学校になっていました。それで以前の姿に戻そうと、生徒に対して目に見える学力以外の非認知能力を高めるやり方に変えたのです。結果的に、東京大学をはじめとする上位大学への進学率も高まりました。

熊本高校の進路部長時代には、その後入社することになるベネッセの担当者と、教材の使用や生徒に同社の模試を受けさせるか否かなどをめぐってよく喧嘩していました(笑)。その後、専務から「ベネッセが良くなる方法を一緒に考えてほしい」と依頼され、全国から優秀な教師を集めて定期的に会議を開くようになりました。それが、公立高校から民間企業に転職することになったきっかけです。ベネッセでは学校教員への研修を行ったり、教材を生徒個人に合わせたものに変えたりと、さまざまな試みを行いました。私みたいな性格の人間は同じことをやっているのが面白くない。どうやったら良くなるかを常に考えているから、改革し続けるのです。

公立教員時代

明星学苑との関りが始まったのは、その後、独立して進路指導のコンサルティングを任されるようになってからです。当時の明星高校は上位大学への合格実績が落ちていて、入学者も減りつつあり、経営的にも厳しかった。でも現場の危機意識は薄い印象でした。吉田元一理事長から「コンサルタントとしてではなく、内部から明星を改革してもらえないか」と言われ、2016年1月から副校長として勤めることになりました。

副校長に就任してしばらくは学校の様子を眺めていましたが、半年ほどたった頃に当時の校長と教頭2人、事務長、進路主任、教務主任の6人を連れて河口湖で2泊3日の合宿を行いました。その時に、用意していたさまざまな事柄に関する数字を見せて「本気で改革する気があるんですか?」と全員に問いました。それまで大人しくしていたので皆さん驚いた様子でしたが、校長以下「本気でやる」と決意し、改革を進めることになったのです。

非認知能力の向上が学力向上にも繋がる

まず、やらなければいけなかったのは、共通言語を持ち全員が進む方向性を合わせることでした。そこで作ったのが「21世紀社会(グローバル社会、高度情報化社会)に対応した活躍力を身につけよう」という教育ビジョンです。この言葉に向かって、全ての行動のベクトルを合わせていくと決めたのです。

目に見えない学力を鍛える取り組みも始めました。たとえば、最初は総合的な学習の時間に何をするかという話になると、先生たちからは修学旅行や英語の多読といった旧態依然のアイデアしか出てこなかった。そこで自分が学年主任を兼務し、やる気のある先生を集めて一から考え直してもらうことにしました。副主任級の先生を育てて、年間指導計画案を作ってもらったり、目に見える学力の指導と目に見えない学力の指導のやり方を考えてもらったり、さまざまな活動を取り入れていくうちに、生徒たちの成績が例年より向上し、活発になっていきました。

明星中学校・高等学校は、SDGsへの取り組みの一環として、2021年より校内へのペットボトル持込禁止・自動販売機での販売廃止を決定。2022年4月には生徒主導でジェンダーレス制服が考案された。

人と組織が強くなれば教育効果も上がります。教師が変われば子どもたちも変わるのが、学校組織です。副校長になって3年目からは、具体的な改革のプロジェクトを中心に動きました。進学実績を上げ、子どもたちを動かし、学年をどう運営していくかというテーマへの取り組みに力を入れていきました。

先生たちの意識を変えるには、子どもたちと一緒になって考えていく必要があります。例えば、校外学習の際にも、それぞれのクラスで生徒たちと話し合って行き先ややることを決めるようにしました。学校近くの高尾山などではなく、銀座や東京駅に連れていき、都内を探索させた後、国立劇場で歌舞伎を見学させて帰ることもありました。中には銀座に何年も行ったことがない教員もいますが、子どもたちには事前準備、実施、帰ってからの発表までさせるようにしているので、一緒になって考えなければいけません。ちなみに、修学旅行も今は研修旅行と呼んでいて、こちらもクラスごとに子どもたちと一緒に行き先や行動計画などを練ってもらうようにしています。こうした取り組みによって子どもたちの企画力やプレゼンテーション力が向上し、学力にも良い影響が出ています。

2022年3月、明星中学校・高等学校と府中市は、「地域活性化に関する協働協定」を締結。まちづくり、自然・環境の保全、教育・文化・スポーツ振興といった8分野にわたって連携することになった。

現在、明星中学と高校は「世界のトレンドに適応し続けるイノベーティブな学校」「人と自然を愛し、自分の価値を大切にする学校」「生徒と教師がともに成長し誇りを持てる学校」の3つを学校としてのビジョンに掲げています。一方、教育目標としては、「自分の未来をデザインし共創していける人の育成」を掲げています。この目標に沿うよう、生徒たちの未来に向けた土台となる学校でありたいと思っています。