子供たちには生きていることの素晴らしさと人との関わりを学んでほしい

#055

元東京都公立小学校女性校長会会長 明星大学教育学部教育学科 客員教授

濱野裕美さん

はまの ひろみ

【明星大学人文学部心理・教育学科教育学専修 1978年卒】

濱野裕美さんは明星大学を卒業後、小学校教員として就職。複数の学校で校長、東京都公立小学校女性校長会の会長を務められ、現在は道徳教育、道徳授業についての研究を専門とし明星大学教育学部客員教授の職に就かれています。子どもたち一人一人と向き合う姿勢や、人との関わりを大切にする考え方についてお話しいただきました。

自らの子育て経験が教師の仕事に役立つ

子供のころから小学校の先生になりたいと思っていました。勉強したり友達と関わったりするのが楽しく、学校が大好きだったからです。両親は中学校から私を明星学苑に通わせたかったらしいのですが、「一人っ子だから、いろんなタイプの子供たちに揉まれたほうが良い」と担任の先生のアドバイスもあり中学と高校は公立校に通うことになりました。先生が仰っていた通り、公立にはいろんな子たちがいて、自分をしっかり持っていないとあらぬ方向へ流されていきそうな環境でした。我慢することや寛容に対応することも中・高の時代に学びました。競争の中で自立を急かされているような場面も多かったように感じます。ですから、明星大学に入った時はホッとしました。周囲はとても穏やかで、先生方も学生一人一人に対してゆったりと向き合ってくださいました。もちろん厳しい先生もいましたが、愛情を持って接していただいていたので、豊かな4年間を過ごせたと思います。

明星大学卒業後は念願の教師となり、青梅市の小学校に勤務しました。ただ、すぐに結婚して、子どもを3人出産したため、バタバタしていた8年間は仕事に十分な力を注ぐことができませんでした。今振り返るとこの期間は教師としての成果を残すことができず、本当にごめんなさいという気持ちです。でも、そんな私に先輩教員が「女性教員は出産という大仕事を乗り越えて一人前の教員になるのだから、大変な時は周りの先生方に頼っていいのですよ。いつかあなたが誰かを助ける役目を担うときが必ず来るから。仕事って一人でするものじゃない。みんなで支え合って補い合って職務を達成させていくのだと思いますよ。」と笑顔で語り掛けてくれました。この言葉は心強かったですね。

教員の仕事に楽しさを感じ職務にも意欲的に取り組むようになったのは、3校目に赴任した昭島市の田中小学校からです。2校目では音楽専科として音楽授業を担当していましたが、田中小学校では学級担任として勤務しました。そこで、子供たちと深く関わり育てて、集団として力を高めていくという学級経営の面白さに目覚め、教科の研究にも力を入れました。保護者との信頼関係も強くなり、「高学年の担任なら濱野先生」と言われるようになり、大きな自信になりました。

課題のあるクラスを立て直す役割を担うこともありました。それらのクラスではほとんどの場合、子供たち自身が周りから認められておらず自信を失っていました。そこで、まず子供たち一人一人に自信を持たせると同時に、友達も頑張っていることを伝えて、子供同士の信頼感を高めるよう努めていきました。

小学校一年生に授業を行う濱野さん

このように子供たち一人一人にしっかり目を向けられたのは、親にとって我が子はかけがえのない存在なのだという事を心から理解できたからかもしれません。目の前にいる一人一人の子供たちは保護者にとっては宝物です。その宝を預かっている教員としての責任を私自身が親になったからこそ実感できたのだと思います。子供には必ず良い所があります。それを見出すのは教員の愛情です。一人一人がもつすばらしい能力に磨きをかけ自信につなげていくことが教員の大事な役割であるという信念をもつことができたのも自分自身の子育てから学んだことだと思います。また、日頃から子どもたちの言動を記録することによって、時間を効率的に使って事務処理したり、集中して教材研究したり、仕事と家庭を両立するための技も身に付けることができました。

校長職に就いてからは、「人と人との関わりの中で、生きていることの素晴らしさを学んでほしい」というテーマを掲げてきました。小学校は人としてどう生きていくかの基本を学ぶ場所なので、「生きていて嬉しい」「命って大切だよね」という感覚と同時に、「一人ではなく、周囲の人々との関わりの中で自分が輝くことが出来る」という事を、子供たちに理解してほしいと考えてきました。

東京都公立小学校女性校長会の会長と、全国の女性校長会の副会長を務めていました。そこでは、女性校長ならではの苦労や課題解決について話し合ったり、女性だからこそできる学校経営を学び合ったりしました。女性校長はまだまだ少なく、地域によっては「女性に学校経営ができるのか?」といった雰囲気が残っている所もあります。地域の行事に積極的に参加したり、住民と良い関係を築いたりできるのか、地域の人たちにとっては不安な面もあるようです。

女性校長会全国大会にて

私が校長として赴任した学校でも地域行事がとても盛んでしたが、進んで参加して皆さんと一緒に楽しむことによって地域の方々との信頼関係を築くことができました。地域の中で味方になって支援してくれる人たちが増えたことで、結果的に教育環境が整備され学校経営もスムーズにいきました。女性教員にとって、子育てと仕事が重なる時期は両立が大変だとは思いますが、教育現場で女性の管理職を増やす活動に、今後も力を入れていきたいと考えています。

明星大学の教育学部で客員教授も務めていますが、私が学生だったころに比べると、今の学生たちは非常に優秀だと感じます。頻繁に学生たちが教員のもとを訪れて、コミュニケーションを取る明星の伝統は今でも変わっていません。卒業後、教員になる学生は多いです。今の縁を大事にして、関わりを持ち続けられたら良いなと思っています。