国家公務員として若者の活躍を支援 ハンドボールで培った「納得できるまでやり抜く」信念でキャリアを築く

#050

内閣府

伊藤匠さん

いとう しょう

【明星高校2001年卒】

「自分は明星高校出身というより、明星高校ハンドボール部出身」と言うほど、部活動に打ち込んできた伊藤匠さん。現在は若者が活躍できる社会、環境づくりを目指して、内閣府(文部科学省からの出向)で起業家支援などのイノベーション政策に取り組んでいます。ライフワークとも言えるハンドボールを通じて得た、人生の知見についてお話しいただきました。

学生時代はハンドボールに熱中

ハンドボールを始めたのは中学からです。競技の魅力は、得点がたくさん入るので盛り上がるシーンが多いところと、もう一つはバスケットボールやバレーボールなどと違って体が小さくても戦えるところです。自分の身長は176cmで、ハンドボール選手の中では小柄です。負けず嫌いな性格で、高校・大学ではキャプテンを務めていました。チームメイトをぐいぐい引っ張るというよりは、目標を立ててやるべきことを着実にやっていくタイプだったように思います。

高校進学にあたり、いくつかの高校からスポーツ推薦で声を掛けていただいたのですが、東京で最も強く、全国トップ3の古豪と呼ばれていた明星高校ハンドボール部への進学を決めました。高校生活は部活動中心の毎日で、気温30度以上の真夏でも直射日光の中でも朝から晩まで練習したり、合宿では朝8時から深夜12時まで練習したりもしました。夏の大会前の朝練では、杉並区の自宅から始発電車で夜が明けきる前の時間帯から通学していたことが印象に残っています。ハンドボールに打ち込むという点で、明星の環境は非常に整っていました。

高校2年次にキャプテンとして初めて臨んだ私学大会で優勝した時の写真(真ん中:伊藤さん)

自分が3年生の時には東京都で優勝し、インターハイにも出場しました。ただ、間違いなく全国で勝てるチームだったと周囲から言われていたにもかかわらず、一勝もできなかったことに対しては今でも悔しさが残っています。その悔しさがあったからこそ、大学に進学してからもハンドボールを続けました。社会人になってからもずっとハンドボールを続けており、ハンドボールは私にとってのライフワークになっています。

アメリカのトップ大学のような大学を日本に作ることが目標

大学生活の4年間もハンドボールに集中していたため、大学卒業後の進路を決める際には、就きたい職業がはっきりとしていませんでした。大学では工学部だったためインターネットや通信業界の企業に就職するか、あるいは母親が教師だったこともあり教師になろうかとも考えましたが、今一つ煮え切りませんでした。そこで、総務省に就職したゼミの先輩に相談したところ、国家公務員の仕事に興味を持つようになりました。それから一年半、大学院での授業や研究の傍ら、朝9時から夜10時まで毎日勉強して国家公務員一種試験に合格し、文部科学省への入省が決まりました。試験合格までの道のりは平坦なものではありませんでしたが、ハンドボールの経験があったからこそ乗り越えることができたと思います。

就職後、1つの転機になったのは、コロンビア大学への留学です。公務員として数年間働くうちに、「日本のために」という漠然とした志を持って、定期的な人事異動で配属された部署で仕事をして、具体的に達成すべき目標もないまま時間が過ぎていくことに何となくモヤモヤした気持ちを抱えていました。そこで省内の留学制度に手を挙げて、米国でイノベーションや起業家支援のための政策を本格的に学ぶことにしました。

留学して分かったのは、アメリカの大学では学んだ内容をスタートアップなどの形ですぐに具体的なアクションに繋げていく環境が整っていること。すべての学部に起業家育成に向けた授業があり、卒業生の起業家や投資家による講演やワークシップが頻繁に開催され、学内コンペや卒業生向けのビジネス施設や投資プログラムも用意されている。言わば学生のやる気を爆発させることができる環境が整っており、その結果として社会全体の成長にも繋がっていると実感しました。留学中には、国際機関の政策実務を学ぶという観点から、世界銀行のスタートアップ政策担当部局でのインターンも行いました。

帰国後、スタートアップ関係のイベントにて、大学一年生の学生から「自分は途上国の社会課題を解決したいという思いで入学したものの、授業ではおじいちゃん先生がステージの上で1時間半ボソボソと話しているだけで、自分のキャリア形成に役に立つ気がしない。どうしたらいいか。今は自分のネットワークを通じて、アフリカのスタートアップ 2社でインターンをやっている。」という相談を受けましたが、アメリカやイギリスの大学への留学を提案するぐらいしかできませんでした。文部科学省で働く身として、若い世代がやる気や能力を最大限発揮できる環境が今の日本の大学には十分に用意されておらず、海外の大学への留学を勧めることしかできない現状に対し、若い世代に対する申し訳ない気持ちで胸がいっぱいでした。

就業中の伊藤さん。スタートアップ関係のイベントにて。

そこで、現在はアメリカの大学のように学生がその能力を存分に発揮できる大学を日本に設立することを目標に掲げています。アメリカの大学の環境は学内のみならず、社会全体の環境に由来するところも大きいため、これを日本で実現するには大学内だけでなく法律や税制などを含め、社会全体でイノベーションが活性化するような法制度面での改革が必要で、やるべき事がたくさんあります。一から新しい大学を作るだけでなく、既存の大学の抜本的な機能強化でも良いと考えており、日本の多くの大学に波及するような成功例を作っていきたいと思っています。

振り返ると、やはりハンドボールを通じて得た経験がさまざまな場面で活きていると思います。現在の仕事では外国の政府関係者や起業家、投資家などと話す機会も多いのですが、生きた英語を習得するのに、留学中にハンドボールを一緒にやっていた仲間とのコミュニケーションが大きく役立ちました。

常に目標設定と挑戦を

明星高校のハンドボール部を名門に育て上げた鈴木亮一先生は著書「名門復活」の中で、「3年間ハンドボールをやり通して、完全燃焼させてやりたい。満足して卒業してほしい」と記しており、この信念に影響を受けています。大学時代のハンドボールも、就職以降の仕事も、公務員試験や留学準備などのために必死に勉強できたのも、高校時代の厳しい練習や悔しい経験をバネに、「これだけやって駄目なら仕方がない」と思えるまで頑張れる気持ちがあったからです。

高校生のみなさんには、何か目標を決めて全力で打ち込んでほしいです。それは部活でも勉強でも趣味でも何でも構いません。たとえ目標が達成できなくても、納得できるところまで努力した経験は、社会に出てからも必ず活きてきます。後から後悔しないよう、高校時代の3年間でも、その後の人生でも、目標を定めてチャレンジし続けてほしいです。

明星高校ハンドボール部の部旗には、「星魂」という二文字が刻まれています。目標達成に向けて挑戦し続ける精神こそが「星魂」の根幹なのだと自分は思います。