自分がいることで快適なコミュニケーションを成立させるのが通訳の醍醐味

#049

アメリカサッカー協会審判プログラムのナショナルキャンプ(右から2番目が木内さん)

米ミシガン州立大学助教 同時通訳者 翻訳者 サッカー審判員

木内裕也さん

きうち ゆうや

【明星小学校・明星中学校・明星高校1999年卒】

同時通訳者として、国際会議やビジネス交渉といったさまざまな現場を経験してきた木内裕也さん。その一方、米ミシガン州立大学でアメリカ研究の教鞭をとり、さらにアメリカのサッカー1級審判員やMLS(メジャーリーグサッカー)担当審判員の指導・評価を行うなど、多方面で才能を発揮しています。マルチな活躍を続ける木内さんに、エネルギッシュに行動し続ける秘訣をお聞きしました。

幼少期から英語に親しみ通訳を目指すように

英語を習い始めたのは4歳の時です。英語が苦手だった両親が息子には勉強させたいと考えたようで、週に一回は英語教室に通っていました。勉強というより遊びに行く感覚で楽しかった記憶があります。明星小学校に入ってからも英語の授業は好きでしたし、校内の英会話クラブや校外の教室にも通うなど、英語にはずっと親しんできました。明星中学ではサッカー部にも所属し、比較的活発な生徒だったと思います。

1つの転機になったのが明星高校に通っていた1998年、通訳ボランティアとして長野オリンピックに参加した経験です。本格的な通訳ではなく、会場で困っている人たちを英語で案内する程度の仕事でしたが、非常に面白く感じました。その頃から、何となくですが将来は英語を使った仕事がしたいと考えるようになりました。

通訳としてのデビューは、大学3年生の時に出席した国際会議でした。上智大学に進学し、同時通訳者として活躍されていた井上久美先生のもとで指導を受けていたある時、先生に同行した国際会議で同時通訳をやってみないかと言われたのです。私に実力があったからというよりは、先生としては頑張っているからチャンスをあげるくらいの気持ちだったかもしれません。先生ともう一人の通訳の方に挟まれて最後まで務めましたが、とても緊張したのを覚えています。

一般的に通訳者は、専門学校に通って一般企業で社内通訳などを経験してからフリーになるケースが多いのですが、私の場合はその後も先生からの紹介で通訳の仕事を請け負うようになりました。不安はありましたが、日本企業からの依頼が多かったため、英語力よりも日本語にしっかり訳せる能力の方が重視されていました。「いくら完璧に通訳できても、聞く人が理解できないと意味がない。だから、ゆっくり分かりやすく喋りなさい」と、先生にも繰り返し教わり、実践するよう努めました。

通訳の仕事の面白さは、自分がいなければ成立しないコミュニケーションがきちんと成立し、その場にいた人々が快適に過ごせたのを見た時に感じます。国のトップや有名人の通訳を担当するのは楽しく、仕事上のステイタスにもなるのですが、私の場合は長期的に関わる案件や現場のコミュニケーションが上手くいくことに対して、より大きな醍醐味を味わっています。

通訳、研究者、審判の仕事をバランスよくこなす

通訳はアカデミックな知識も持っていたほうが良いため、大学在学中に1年間ボストンカレッジに留学し、卒業後にはマサチューセッツ大学ボストン校の大学院でアメリカ研究を行うことにしました。既に通訳の仕事をしていたとはいえ、学生同士のディスカッションに最初はついて行けず苦労しました。その後、せっかくなら博士号も取ろうと思い、ミシガン州立大学で研究を続けることにしました。

アメリカ留学時代も通訳の仕事は続けていて、修士課程を予定より半年早く終えられたため、上智大学で講座を受け持ったり、六本木のミッドタウン建設に通訳として関わったりしていました。一般企業に就職しようという気持ちは最初からありませんでした。通訳の仕事とアメリカ研究の両方を続けたかったし、自分のスケジュールを自分でやりくりするのが好きだったからです。

毎年、夏の5週間は30名強の学生を連れてオーストラリアへ

その他にも、サッカーの審判員としての活動も継続して行っており、2015年にはJリーグや各種全国大会の試合を担当できる1級審判員のライセンスを取得しました。現在は審判を引退しましたが、アメリカメジャーリーグサッカーの審判員を評価する仕事を手掛けています。通訳と研究と審判の仕事は全て大好きなので、多忙でもストレスにはなりません。今後もこの3つをバランスよく続けていくのが理想です。

サッカー1級審判員研修会で指導者としてオリンピック選手などがトレーニングする施設Chula Vistaに行った時

私が明星学苑に在籍していたのは20~30年前になりますが、当時から好きなことを見つけて努力し、先生たちがそれを認めてチャンスを与えてくれた経験が非常に大きいと思っています。在校生の皆さんも、何でも良いから好きなことを見つけて追及していってほしいです。それができるのが、明星の良さだと思います。