日能研・代表取締役社長 理念のもとに繋がれるのが私学の良さ。
結果だけでなくプロセスを重視する

#048

株式会社日能研 代表取締役社長

高木幹夫さん

たかぎ みきお

【明星大学 人文学部心理・教育学科 教育学専修 1976年卒】

明星大学の教育学部を卒業し、現在は中学受験のための進学塾として有名な日能研の代表を務める高木幹夫さん。型にはまった日本の学校教育に違和感を覚え、独自の手法を取り入れた塾運営をされていらっしゃいます。その基本的な考え方と、同じ教育界に関わってきた立場から、明星学苑への提言を頂きました。

生徒が合格後にどう過ごせるかを考える

学生時代から教育分野に関心があり、父親が経営する日能研を継ぐ可能性も少し考えていたので、小学校教員免許が取得できる明星大学の教育学部に入学しました。卒業後は教員になろうとも考えたのですが、ボランティアでとある学校訪問をしたときに、教師を四角四面に縛り付けるやり方を目にして、自分には合わないと感じました。それで、日能研に入ることにしたのです。

当時は中学受験がそこまで一般的ではなく、受験生の保護者の関心は志望校に合格できるかどうかだけに集中していたため、合格までのプロセスは重視されていませんでした。それに対して日能研は、合格というハードル越えは意識しつつも、子どもたちとしっかり伴走し、「どう理解しているか」を重視するスタイルを、特に1990年代後半から強く打ち出してきました。早い時期からコンピューターを導入して、S-P表(学校/学級別回答状況整理表)を塾で最初に取り入れたのも我々だと認識しています。「カリキュラム」という言葉も、一般化する前から使用していました。

大学受験の競争圧力が下がってきた時期には、私学の側も入学した生徒たちがその後どう伸びていくかに関心を寄せるようになり、どんな生徒に入学してほしいかという点で特色を出すようになっていきました。大学の合格者数だけで成果を誇る時代が終わり、中学高校の6年間通ってもらう価値をどう表現するかについても、それぞれの学校の色が出るようになっていきました。それに伴い、入試問題の作り方も変化してきています。

合格までのプロセスを重視する日能研のやり方に対して、保護者の方の理解も得られるように働きかけてもきました。今、テストで何点取れるか、といった目先の話ではなく、志望する学校を受験するまでに合格後学力という観点から話がしやすくなっています。子どもたちの過去ではなく未来をどうするか、テストでの結果は〇が過去、どうスタートするかの未来への結果が✕、という着目をしています。

今の学校教育制度の問題点を挙げるとするなら、教育委員会が機能不全を起こしていることではないでしょうか。教育委員会は地方自治の管轄となるため、文部科学省が手を付けられない部分があります。地方の教育界を規制する組織としての力が強く、改革するのは難しい。そうした縛りから抜けたいというのも、保護者の方々が子どもを私学に通わせたがる理由の一つになっているように思います。合格後、決められた枠の中だけで躾けられるのではなく、しっかりとわが子を見てもらえること、その中で子ども自身が楽しんで過ごせること。そんな視点で私学を選択するようになっています。日能研では合格できる学力だけでなく、進学した後にどう過ごせるのかという観点から、保護者の方々と話をするようにしています。

私学の持つ可能性に期待

私が大学に通っていた頃は、3年生まで教職課程が学年配当ではありませんでした。たとえば、ある教科の教材研究の授業では、1年生から4年生までが一つのクラスで学んでいて、いろいろな人たちと教科の話ができる点が非常に良かった。しかし、4年生の時に学年配当に変わってしまい、そうした良さがなくなってしまったのが残念です。

明星は私学ですから、自分たちの枠をどこまで広げられるかという視座をぜひ持っていただきたいと思います。枠の中に居れば居心地が良いでしょう。枠のギリギリのところまで行けば、それだけ問題が起きる可能性が高まります。枠の中に小さくおさまるための力ではなく、積極的にギリギリに向かい、そこで起きる可能性がある問題を解決していく力こそが、私学の持つ魅力ではないかと思うのです。

日能研は塾なので、私学の在り方によって存在意義が左右される立場にあります。少し前に明星大学を久しぶりに訪問して、ある先生に「私学の教員養成をやりませんか」と提案したことがあります。国公立大学が行っている教員養成とは異なる、私立の中学、高校の教員を養成するための独自の取り組みがあっても良いと考えたからです。まだ実現はしていませんが、何かできるチャンスが訪れたら、また協力させていただきたいと願っています。

私学の良さは、理念の中で生徒と教員が繋がれる点です。理念のもとに繋がる教育を、明星の旗のもとに集う皆さんと共に意識していきたいですね。