建学精神を守りながら、次の100年に向けたさらなる発展を目指す

#046

明星学苑 理事長

吉田元一さん

よしだ もとかず

【明星中学・明星高校 1964年卒業】

吉田元一理事長は、明星中学、高校の卒業生であり、学苑創設者である児玉九十先生の「世界に信頼され、世界に貢献できる日本人になれ」という教えを、総合商社で実践されてきました。三井物産で40年勤務したあと、2012年に明星学苑理事長に就任され、今日に至っています。学苑創立100周年にあたって、明星学苑がこれから目指す教育と学苑の姿について、お話を伺いました。

創立期から今日のグローバル社会を意識した教育方針

私が明星中学校に入学したのは、60年以上も前のことになります。高校時代も含めて、明星で過ごした私の原風景は、国分寺駅から毎日歩いた通学路です。雨の日も風の日も30分以上かけ、歩きながら眺めた武蔵野の緑は、今でも思いだす美しい光景です。心身を鍛えるため駅から歩くという徒歩通学にはじまり、夏は海で遠泳、冬はスキー学校と、心身ともに明星学苑の教育方針である「手塩にかける教育」「体験教育」をうけた貴重な日々でした。

明星中学に入学して間もない頃、学苑創立者である児玉九十先生から、建学の精神についてお話を頂きました。先生が仰った「世界に信頼され、世界に貢献できる日本人になれ」という言葉が、当時13歳だった私に鮮烈な印象を与え、世界で活躍したいと思いました。今思えば、これが世界に目を向ける最初のきっかけでした。

私が社会人となって以来、また現在はますます世界のグローバル化は加速していますが、児玉先生はおよそ100年も前の創立期に、すでに将来のグローバル時代を見通して、社会・経済の変化を洞察した人材育成方針を打ち立てていらっしゃったのです。世界という視点で教育を行ってきたその先見性に改めて感銘を受けています。

明星高校時代の教室にて。写真中央前列が吉田理事長。

一橋大学時代には、1年間休学して世界を旅したこともあり、海外で仕事がしたいという思いをさらに強くしました。三井物産に就職して2年目に社内の英国修業生の制度に応募してケンブリッジ大学で学び、その後も英国で10年間勤務した経験は強く印象に残っています。役員となってからは米国法人の社長として、ニューヨークに2年間駐在し、結果的に子どもの頃からの夢を叶えられたことになります。

経営課題に取り組むと共に、新たな教育構想を打ち立てる

三井物産の役員を退任する時に、当時の理事長と同窓会の幹部の方の訪問を受け、企業経営経験のある人に学校経営をみてもらいたい、との御要請を受け、その後理事長のお役目をお引き受けしました。私にとっては想定外の転身でした。

私立学校は建学の精神の理念に基づき教育を行い、同時に学校の経営をする訳です。その学校の特色ある質の高い教育と、それを支える健全な財務基盤が表裏一体として運営されなければいけません。その中で、私はいくつかの経営課題に取り組んできました。

一つは、少子化で苦戦していた、小学校、中学校・高等学校の立て直しです。それぞれに新しい校長に来てもらい、教育改革を実行してもらいました。その成果として、現在志願者は順調に伸びています。幼稚園、小学校、中学校・高等学校の教育で大事な事は、伝統ある明星教育の上で、新しい時代を生きる力をつける特色ある教育を打ち出していく事だと思っています。それを幼稚園から高等学校までの一貫教育を通して取り組んでいます。

明星は昔から体験教育を重視してきましたが、これは今で言うアクティブラーニングに近い考えです。課題を自ら考えて答えを見つけるという明星教育の精神をベースに、それを現代版にアレンジしていくことで特色ある教育を実現していきます。小学校から英語やプログラミング教育をかなり前から取り入れてきましたし、中学、高校ではSDGsの教育に力を入れています。

在校生を激励する吉田理事長

二つ目は、いわき明星大学の分離独立です。やはり東京から福島県のいわき市にある大学を経営するには困難さがあり、思い切って分離独立してもらいました。現在、いわき明星大学は「医療創生大学」と改名し、地域に密着した医療系大学として頑張っておられます。

三つ目の課題として、明星大学の教育、経営改革に落合学長と取り組んでいます。明星大学は「教育の明星」として発展してきましたが、これから10年~20年で大学志望者が大きく減る中で、より一層高校生と保護者に選ばれる大学にならねばなりません。新しい時代を見通した質の高い教育を継続し、教育投資をしていかなくてはなりません。

今年、データサイエンス学環を創設し、この分野リテラシーを全学生の必須としたり、文理融合の分野交差型のクロッシング教育を推進するなど、さまざまな学修者本位の新教育構想を実行しています。

どんな時代が来ても自立して社会に貢献できる人材を育てる

今年は創立100周年です。1923年に明星実務学校として創設しその後、明星中学校へ改組しました。1948年には明星高等学校を開校し、戦後の住宅難の中、明星中学校の寄宿舎に住まわれていた本学苑の先生方のお子様たちのための明星幼稚園の開園、そして明星小学校の開校と続きました。創立40周年事業の一環として1964年に明星大学を開学しました。この間、府中校から約5万4千人、大学からは約8万2千人の卒業生を送り出し、社会の発展に貢献してまいりました。

この100年の歴史は明星学苑にとって大切なことは言うまでもありませんが、それ以上にこれから先、100年続く学校になるために何を為すべきかを考え、実行していくことが、より重要だと思っております。そのために次の100年を見据えた「Next100ビジョン」を策定しました。それは「自ら変革し続け、新たな時代、新たな世界を謳歌する人間性あふれる卒業生を輩出する学苑」です。

現代の社会は変化の激しい時代にあります。AI・ICT技術革新によるデジタルトランスフォーメーション、超スマート社会、地球環境問題など地球規模の変動に直面しています。その中でどのような時代が来ても、自立し社会で活躍し社会に貢献できる力を養うのが明星教育の使命です。

現在、学苑の同窓生は約14万人を数えます。数多くの同窓生が社会の第一線で活躍しており、長い伝統の中で社会に貢献する人材を育てる役目を果たしていると考えています。とりわけ多摩地区では、「明星ならば安心して子どもを任せられる」という声をよく伺います。今後ともその期待に応え、日本の未来を担う子どもたちを大切に育てることに、全力を傾けていきます。

「世界に貢献する人の育成」「体験教育」「手塩にかける教育」「健康、真面目、努力」など明星教育の原点をしっかり踏まえ、これからの社会の変化の中で、時代の要請に応える多様な教育テーマに取り組んでいきます。私は学苑で学ぶすべての若者が心身ともに健康で、人生の目標に真面目に努力し、社会に、世界に貢献できる人材に育ってもらいたいと考えています。そして、そうした人材を育成する学苑として発展していきたいと願っております。