社員1万2千人を束ねる経営者 「学生の皆さんには、社会の変化に応じて『変革と挑戦』を続けてほしい」

#024

日本ハウズイング代表取締役社長

小佐野台さん

おさの うてな

【明星大学理工学部土木工学科1988年卒】

明星大学の土木工学科(※当時)を卒業し、現在は日本ハウズイング(不動産建物管理会社・東京都新宿区)の代表取締役社長を務める小佐野台さん。マンションデベロッパーの系列に属さない独立系管理会社では最大手の会社経営者として活躍する傍ら、明星学苑理事を務め、建築系の学生向けに「小佐野奨学金」も設立するなど、学校運営や学生のサポートに積極的に取り組まれています。そんな小佐野さんに学生時代のお話や、若者たちを支援する思いについて伺いました。

同窓会との関りを深め、奨学金も設立

私は日本ハウズイングという会社で、ビルや商業施設、賃貸マンション、分譲マンションなどの建物管理と、それらに付随する修繕工事の2つを中心とした事業を展開しています。会社の前身は山梨から上京した父が、まだ大学3年生だった1958年に設立した富士建物工業という清掃会社でした。その後1966年に現在の社名に変更し、建物の設備管理も始めました。私が明星大学の土木工学科を選んだ理由の1つは、父がいる業界に近い分野であるということ。もう1つは、建設会社のテレビCMで見た「地図に残る仕事」というキャッチコピーに感銘を受け、インフラに関わることは夢のあるフィールドだと感じたからです。

大学の授業ではコンクリートを使用した実験を行ったり、現場で測量実習をしたりと、様々な実践授業を通じて経験を積ませて貰いました。モノ作りの過程に興味があり、研究の成果が出ると嬉しかったのを覚えています。当時は学生全体の半分ぐらいは女性でしたが、理工系は7~8割が男性。土木学科に関して言えば、220人いる学生のうち女子は数人ほどの完全な男社会でした。1、2年生の教養課程では、実験を終えて作業着のまま授業に参加していたのでちょっと浮いていましたね(笑)。

卒業後はいったん不動産会社に入社し、父の会社に入社したのは25歳の頃です。土木の分野ではありませんでしたが、大学で学んだ先輩や後輩たちとの交流の仕方や、人間関係の作り方は社会人になって大いに役立ちました。
卒業後しばらく経って、皆様のご指導のお陰もあり40歳で社長に就任することになりました。その翌年2006年に明星大学から入学式での祝辞を依頼されたのがきっかけとなり、再び明星大学とのご縁が繫がりました。

明星大学入学式で祝辞を述べた2006年、日本ハウズイング入社式後の記念写真

大した話はできないからと何度かお断りしたのですが、最終的にはお引き受けすることになりました。その時話したのは「夢を語って夢を実現できる会社にしたい」ということです。自社の入社式などでも若い人たちに同じことを伝えているのですが、そこには「夢を持つ人がいれば、それを実現できるように会社がバックアップします」というメッセージを込めています。
その後は、企業経営者となった明星の卒業生たちが集まる同窓商工会のメンバーに加わらせていただき、多くの方々と交流を深めていきました。卒業生として何か貢献できればという思いで学校に寄付をさせていただき、建設学系の学生さん向けに奨学金制度を設けました。特にこの2年半ほどはコロナ禍で生活が厳しくなった学生さんもいると聞き、ささやかではありますがお役に立ちたいと考えた次第です。

日々の積み重ねが新たな発見を生む

私たちの会社では15年ほど前に、「安全で快適な住環境づくりを通じて、広く社会の発展に貢献する」という経営理念を作りました。全国で1万2千名の社員がおりますので、価値観を共有し、考え方の方向性を定めることが必要だったからです。社員たちが悩んだり困ったりしたときは、常に経営理念に立ち返って行動してほしいと伝えています。
また、行動指針を定め、社員たちの拠り所にできるようにしています。その中に、いつも父が言っていた「陰日向なくなくコツコツと業務を遂行します」という文言があります。そこには、「大した事はできないかもしれないが、日々の積み重ねを大事にして仕事にあたってほしい」という思いが込められています。学生さんたちも日々の生活で悩んだり、気持ちが揺らいだりすることもあるでしょうが、毎日を大切に過ごしていれば必ず新しい発見があると伝えたいです。

当社には明星大学の卒業生も27人在籍していますが、みなさん考え方が素直で真面目な印象です。前述した入学式での祝辞でお伝えしたように、若い皆さんには夢を持っていただきたいと思います。夢は仕事でなくても構いません。実現できる方法を考えていれば、何かのきっかけで良いヒントが出てくるものだと思います。

2013年明星大学でのホームカミングデー。日本ハウズイングに入社した明星大学出身者と共に。 左から3番目は、明星大学元学長 氏原淳一名誉教授。

私自身には、社長になった時に宣言した「マンションからごみをゼロにする」という夢があります。
まだ実現できていないのですが、ごみがゼロになればCO2削減につながりますし、清掃員にとって大きな負担になっているマンションのごみ出しなどの作業も減らせます。そんな考えを抱いていたところ、最近になって機械工学科の齊藤剛先生と協力して、ごみをチップにしてリサイクルする研究が産学連携でできないかという話が持ち上がりました。こうしたことも、再び大学と関わるようになったメリットだと感じています。

お客様だけでなく、社員を、人を大切にしたいと語る小佐野さん。会社のシンボルマークには「Your Life First 何よりも、あなたのこと、暮らしのこと」が掲げられている。

当社は今年で設立64年を迎えます。「変革と挑戦」が、100周年を迎える明星学苑のテーマですが、われわれの会社がこれまで存続できたのも、社会の変化や事業環境に適応し自らを変革してきたからです。清掃業からスタートして、建物管理、修繕、ディベロッパーなど時代のニーズに応える形で業態を変えてきました。学生の皆さんも社会にアンテナを張り巡らせ、いろいろな人たちと会って、変革と挑戦を続けていただきたいと思います。