メジャーリーガーを支えるアスレティックトレーナー
大切なのは周囲との比較ではなく自分が成長し続ける事

#002

ボストン・レッドソックス アスレティックトレーナー

高橋眞彩さん

たかはし まさい

【明星高校1994年3月卒】

明星高校卒業後アメリカに渡り、現在メジャーリーグのボストン・レッドソックスでアスレティックトレーナーとして活躍する高橋眞彩さん。怪我をした選手のリハビリメニューの作成や健康管理、障害の予防などメディカル分野の指導・サポートを手掛ける仕事で、これまで多くのスター選手たちの体をケアしてきました。高橋さんが歩んできた道のりと、明星学苑の生徒たちに向けて将来のキャリアを考える上でのアドバイスをいただきました。

先生からのアドバイスをきっかけに渡米 苦手だった英語を克服し現地の大学へ進学

高校卒業後の渡米を決めたのは、先生からのアドバイスがきっかけです。高校では野球部でピッチャー。卒業後の進路については球界でのアスレティックトレーナーを考えていました。先生や周りの方からは「ならば本場アメリカで勉強したほうがいいんじゃないか」と推され、渡米を決めました。でもその時点は、まさか自分がメジャーリーグで働くことになるとは、想像もしていませんでした。

特別英語が得意だった訳ではないので、いろいろと苦労しました。渡米後すぐは、2年制大学に入って1年間授業を受けたのですが、毎日の宿題に泣かされましたね(笑)。「宿題=Homework」は聞き取れても、その中身までは理解できなかったものですから、授業後に先生の部屋を訪ねては宿題範囲を確認する日々。そんなことを経験しながら、その後はネバダ大学ラスベガス校に編入し、スポーツ損傷マネージメントを学びました。ここで失敗したら後がないと思っていたので、覚悟を決めて真剣に勉強。無事に大学を卒業し、資格も取りました。

現在も交流がある野球部監督・牛久保先生と部員。数年に一度の帰国時には、皆で集まり辛かった練習の思い出を笑い話のネタにしている。今となっては、厳しい環境で努力する心や精神力を鍛えてくださった監督・コーチに対して、感謝の念が尽きない。

ラスベガスの公立高校、マイナーリーグを経て、メジャーリーグへ

大学卒業後は、日本のプロ野球チームやニューヨークヤンキースでトレーナーとしてのインターンにも参加し、経験を積んできました。当初は日本のプロ野球球団を希望していたのですが、日本への一時帰国中に明星高校の先生から「大学院に進学して極めたらどうか」と再びアドバイスをいただいたことをきっかけに、ネバダ大学の大学院へ進んだのです。2003年に大学院を修了した後は、日米のプロ球団に履歴書を出しましたが採用されず、ラスベガスの公立高校で初めて、フルタイム勤務のアスレティックトレーナーとしての職を得ました。するとレッドソックスがその後も履歴書を取っておいてくれたらしく、公立高校での勤務開始から半年後に連絡があり入団決定。なぜ声をかけてくれたかは不明ですが、僕はストレングス&コンディショニング*という資格とアスレティックトレーナーの二つの資格を持っていたので、そういったところが評価されたのではないかと思います。

*ストレングス&コンディショニング資格とは、傷害予防とスポーツパフォーマンス向上を目的に、安全で効果的なトレーニングプログラムを計画・実行する知識と技能を持つ人材を認定するもの。

いくつもの分野のプロが集まるエキサイティングな環境

2004年にマイナーリーグの選手を担当した時は、無我夢中で仕事をしていました。2007年からメジャーリーグの担当になると、年俸30億円の選手などもケアするようになり、さすがにそれはプレッシャーがかかりましたね。でも仕事である以上、常にうまくいくわけではなく、うまくいかなかったときにいかに自信を無くさずにやれるかを大切にしてきました。トレーナーの契約更新は2年毎で、メンバーはよく変わります。事実、メジャー担当になった2007年からずっと在籍しているのは僕以外には2人だけなんです。ただ、僕自身はあまり周囲の評価は気にせず、目の前の仕事に集中することにしています。仕事のスキルを上げることに集中して、自分がコントロールできないことに関しては心配しないようにしているんです。

仕事をしていて一番のやりがいは、リハビリテーションを担当した選手が無事に怪我から復帰して、そのまま活躍できるようになった時です。特に稼いでいる選手の場合、周囲が適正よりも早めに復帰させたがるのですが、それが原因でまたすぐに怪我をすることも多いので、実は復帰させてもしばらくは安心できないのです。そこも含めて復帰がうまくいったときは、やはりうれしいですね。

2018年のアメリカンリーグ地区シリーズでニューヨークヤンキースに勝利した直後のチーム仲間との一枚。その後のリーグチャンピオンシップシリーズではレッドソックスが5年ぶり14回目のリーグ優勝を果たした。

職場環境について言えば、レッドソックスは毎日がエキサイティングです。チームには、整形外科医、内科医、トレーナー、マッサージセラピスト、ストレングスコーチなど、いくつもの分野のプロが集結していて、日々スポーツ医学に関する専門知見に触れたり、活発な意見交換ができる。それが僕にとっては、すごくよい刺激になっています。ちなみに、試合があるたびにアメリカ各地を訪れることができるのも、プロチームならではですね(笑)。

自分のものさしを持ち どれだけ成長したかを意識する

仕事のスキルを上げるために、3、4年に一度は自分を振り返るようにしています。そのたびに過去の自分は下手だったなと思いますね。今でもうまいとは思っていませんが、周りとの比較ではなく、過去の自分と比較してどれだけ成長したかを意識しながら働くようにしています。知識をアップデートすることも大切ですし、失敗した経験などから自分の引き出しを増やしていくことも大事。また立場に関係なく仲間から学べることがあれば全て吸収していく、というのが僕のスタイルです。

明星高校を卒業して、早27年が過ぎました。僕がいま、明星学苑の在校生に伝えたいことは、「他人の評価を気にせず、自分の信じている事に向かって忠実に努力してほしい」ということです。周りを気にして行動を決めるのではなく、純粋にやりたいことを頑張ってほしいのです。僕自身、「今の自分ができることを真剣に頑張る」という事の大切さに早く気付いていたらもっと良かったのにと思っています。受験勉強を頑張るのはもちろん良いこと。だけど、何のために勉強するのか、どこに向かって進もうとしているか、一度立ち止まって考える時間を作ってほしいです。仮に人と違う道を歩むとしても、自分がしたいことを一生懸命にやって、生きていく活力を養ってもらえたら、と思います。明星学苑の一員として、皆さんの活躍を陰ながら応援しています!

レッドソックス本拠地球場となるフェンウェイ・パーク(現存する最古のMLB専用球場。1912年開場。)で撮影した家族写真。妻あゆみさんと4人の息子(かいせい、しょうえい、けんせい、こうせい)と共に。