米大学で研究者 生命科学の分野で研究者としての道を究める

#038

勤務先である米ノース・ダコタ大学の同僚と(中央が五月女さん)

米ノース・ダコタ大学研究員

五月女美香さん

さおとめ みか

【明星大学理工学部理工学研究科化学専攻博士後期課程 2019年修了】

生命科学・化学の分野で博士号を取得後、現在は米ノース・ダコタ大学で研究者として活躍する五月女美香さん。細胞の性質を変化させるタンパク質の基礎研究に従事しており、研究成果は将来的に医療分野などへの応用が期待されています。学部時代、大学院時代を通じて師事した香川亘教授は五月女さんについて「物事の本質を捉える能力が非常に優れている」と高く評価。狭き門と言われる日本学術振興会の特別研究員にも、明星大学から初めて採択されました。将来が嘱望される五月女さんに、米国での研究者としての生活や将来の展望などについて聞きました。

博士号を取得後、米国で研究を続ける

中学1年生の時、ヒトゲノムの配列が解明されたというニュースを見て、「生物ってすべてそれで理解できるんだ!」と感銘を受けたのがきっかけで、生命科学の分野に興味を持ちました。明星大学に入学したのも、生命科学の分野で研究をしたかったからです。

大学3年生で香川先生の研究室に入ったころから、タンパク質がDNAをどう制御しているのかというテーマで研究を続けています。当時は、主にタンパク質が実際にどう機能してDNAを制御しているのかを調べていましたが、現在所属しているノース・ダコタ大学の研究室では、DNAの塩基配列(ATCG)を読む最新の技術を学び、過去に行ってきた内容と合わせて研究を進めています。

大学は地方にありますが、機器や施設がそろっていて、研究環境が非常に充実しています。大学の中で専用の機械を取り扱っていたり、細胞のDNA配列を読む専門家がいたりする点でも恵まれています。日本と違って、地方の大学でも予算がしっかりと確保されているのが、米国で研究を行うメリットの一つだと思います。

渡米前にNPO法人が主催する英語でのプレゼンテーションを学ぶ会(トーストマスターズ)に参加していたので英語で話すことに対してはそれほど抵抗を感じませんでしたが、参加していた期間が短かったこともあり渡米時は英語が上手くなかったので、困ることが多かったです。しかし、渡米してすぐにルームシェアを始めたのですがルームメイトのインド人女性が親切だったので英語でのコミュニケーションを学ぶことが出来ました。その後も彼女とは仲良くしています。

2014年ゼミ合宿(八ヶ岳山荘)。当時のゼミで唯一の修士学生だった五月女さんは、 合宿では後輩学部生の指導も行った。「楽しかったですが、とても大変でした」

現在は自分の研究以外にも、研究室への配属を希望した学生の指導を行っています。指導した学生から求められて進学に必要な推薦状を書いたこともあります。米国では日本と違って、履歴書に書く内容を増やし、複数の人から推薦状を書いてもらうことが、学生のキャリア形成にとって重要です。推薦状では人柄も書く必要があるためか先生と学生はそれほど上下関係を意識せず、より多くのコミュニケーションを取る文化があり、日本の大学との違いを感じました。

大変な道であっても好きな研究を続けたい

明星大学時代は、化学研究部に所属してタイのスラム街で藍染教室を開いたり、日本化学会に参加したり、明星大学で開催されたシルク学会に参加したりと、学部での勉強以外にもさまざまな活動を行っていました。それらの活動を通じて、物理関係や有機系化学といった異なる分野の先輩たちなどとも知り合い、学部3年で研究室に配属されて研究している姿を見て進路の参考にすることが出来ました。

学部から大学院にかけてずっと指導を受けてきた香川先生からは、日々のディスカッションなどを通じていろいろと学ばせていただきました。先生はアメリカ出身なので、英語の文法ルールの影響もあるとは思いますが「主語をきちんと入れて話すように」と、よく指導されました。その指導を受けてから理論立てて話す重要性を意識するようになったので、他の研究室の方々とディスカッションする際などに役立ちました。また、日本生化学会や日本蛋白質学会のポスター発表で賞を頂いたこともありますが、それも審査の先生方の専門分野を踏まえて、理路整然と話す方法を身に付けていたおかげではないかと思います。香川ゼミに限らず、明星大学では教授と学生との距離が近く、直接色々なことを相談できる関係を築けるのが良いところだと思います。

2017年 日本蛋白質科学会(仙台)ポスター賞受賞時の記念写真

後輩の皆さんには、大学時代には「これをやったらこれが得られる」といった事をあまり考えずに、何でもチャレンジしていただければと思います。たとえ方向が間違っていて何回も外れを引いたとしても、それらは貴重な経験になるし、いつか当たりを引ければ良いのですから。

職場での五月女さん

将来については、このまま研究を続けてアカデミアの世界で独立したプロの研究者になりたい、と考えています。大変な道ではありますが、研究は好きで没頭できますし、将来が確約されていない中でもやはり続けたいと思えるからです。私が手掛けているのは基礎研究なので、研究成果がどう世の中に還元されるかは分からない部分があります。しかし、この世界でずっとやっていけるぐらいの成果を出して、後に続く研究者たちに何かを残せるようになれたら嬉しいです。