学校の正門から続く、武蔵野の面影が残る並木道に、緑の新芽が色づき始めました。新しい命の芽生えを感じる春の佳き日、大室容一同窓会長、今池俊彦ＰＴＡ会長をはじめ、多くのご来賓と保護者の方々に見守られ、明星中学校・高等学校入学式を執り行えますこと、本校教職員一同、心よりお祝い申し上げます。晴れて明星中学校の一員になった新入生諸君、入学おめでとう。保護者の皆さまのお慶びも一入のことと存じます。これから明星で過ごす６年間、あなたは期待に胸を膨らませていることでしょう。創立者児玉九十先生は「健康・真面目・努力」の校訓を定め「体験教育」を大切に、あなたの成長を心から願いました。その思いを受け継いだ私たち教職員は、あなたが「自立」する道を力強く歩んでいけるよう、全力で応援いたします。

　先日の歓迎会では、ここ児玉九十記念講堂の、素晴らしい音響を味わってもらいました。あなたの入学をお祝いし、今日も一曲、歌を聴いてもらいます。詩人、金子みすゞの作品です。

わたしが　りょうてを　ひろげても、

おそらは　ちっとも　とべないが、

とべる　ことりは　わたしのように、

じべたを　はやくは　はしれない。

わたしが　からだを　ゆすっても、　

きれいな　おとは　でないけど、　

あの　なる　すずは　わたしのように　

たくさんな　うたは　しらないよ。　

すずと　ことりと、　それから　わたし、

みんな　ちがって、　みんな　いい。

　さて、あなたは何を感じましたか？　ここに集まった１５７人、もちろん顔も性格もみんな違いますね。そこで一人ひとりが、お互いを大切にして、よりよい社会を築いていこう。１００年前に金子みすゞが願いを込めて詩を残しました。では、次のように歌われたら、あなたはどう思いますか。

「みんな違って大変だ」。

　平田オリザという日本を代表する演出家が言いました。「みんな違うことは、実際には大変なことです。だからといって、大変さから目を背けるわけにはいかない。気の合う友だちや、自分のことを愛してくれる人とだけで生きていけるのならば、それも幸せなのでしょう。けれど、人間の社会はそうはできていません」。そのように言って、お互いの違いを認め合いながら、我慢するところは我慢することが大事なんだと締めくくります。どうでしょうか？　

みんなちがってみんないい…

みんな違って大変だ…

　今日、この話をしたのは、「自立」について、保護者の方とも一緒に考えたいからです。中学校は授業や部活動など、これまでとは大きく変わります。みんなが違っているからこそ良い場面と、みんなが違ったら大変だ。仲間も先生も困るだろう、ここは考え直してみよう。そんな場面が繰り返されます。そこであなたが、ここはどっちだろう。みんなが違うからいいのか、違ったら大変なのか。上手に使い分けられることが「自立」の一歩であり、あなたの成長だと思うのです。この二つを、ぜひ頭に入れて学校生活を過ごしてください。

　さらに、この詩に込めた、金子みすゞの思いをもう一歩、探究してみます。みすゞが生きていた時代から、日本人は「みんな同じで安心だ」と調子を合わせようとする国民でした。そのうえ「みんな同じ」を、他人に押し付けようとする性質もある。みんな同じで安心だ…この空気を換えた方が良くないでしょうか？　と、みすゞは呼びかけたのかもしれません。今は世の中の変化が激しく、国際化が進んでいます。みんな同じではなく、一人ひとりの個性に目を向け、違いを認め合うことが大切で、あなたの自立、成長につながる道でもあります。偉大な文学者はすぐれた預言者ですが、金子みすゞは、１００年後の今を見通して、この詩を詠んだのかもしれませんね。

　明星では、あなたの個性を育てる場を、たくさん用意しています。豊かな体験を通して、中学校時代に一つでいいから「これだ」といえるもの。得意な教科やスポーツ。好きな音楽や絵、本の世界など、あなたを支える軸を作ってください。そこから幹は太くなり、新しい枝がどんどん伸びていくことでしょう。私の中学校時代を振り返ると、学校の誰よりもたくさんの本を読んでいました。家での自由な時間は、たいてい読書をしていたので、そのように言えるのです。明星中学も、読書の時間を大切にしています。立派な図書館で、あなたも大いに本に親しんでください。昨年度、１年に２００冊の本を読んだ生徒もいました。今はデジタル技術が読み書きを助け、勉強の苦労も、機械が代わってくれる時代です。便利ですが、でも頼りすぎてはいけない。あなたは、あなたにしかない「違い」を自分の力で育て、そして仲間の「違い」を大切にしていってほしいのです。明星での６年間が、あなたが大きく成長するための、かけがえのない時間になるよう、私たちは応援していきます。

　最後に、保護者の皆さまには大切なお子さまを私たちに託してくださり、光栄に思っています。教職員一同、心よりお子さまの成長を応援させていただくことを、お約束申し上げ、式辞といたします。本日は、おめでとうございました。

令和六年　四月八日

明星中学校・高等学校　校長　水野　次郎

伴奏：岩崎　　このみ

揮毫：長谷川　圭美